昆虫が工場内へ侵入するのを防ぐには?
一般に屋外(工場敷地内)における防虫管理としては、侵入防止対策として外壁や出入口への忌避剤処理や、発生源対策として緑地帯・浄化槽などへの殺虫剤処理が実施されてきました。
しかし、薬剤を使用した化学的防除のみでは昆虫の発生および内部への侵入を防ぐことは非常に困難です。
昆虫の侵入を阻止するためには、様々な対策を組み合わせて総合的な防除というものを目指さなければなりません。
そこで、まず物理的な侵入防止対策として、主に壁面の隙間や窓・出入口の改善、前室の設置、間仕切り(パーティション)の設置、開口部の閉鎖、出入口を開放しない慣行の徹底などが挙げられます。
荷物の搬入出口や従業員出入口といった使用頻度の高い出入口は、昆虫の侵入経路となることが多く、直接出入口と製造室が接しないような工夫(前室の設置やインターロックによる二重扉構造など)が必要となります。
コストや設計上の問題などからこれらの対策が困難な工場や事業所などの場合、そのような箇所への対策として、エアーシャワーやエアーカーテンによる昆虫の侵入遮断や高速シートシャッターやビニールカーテン(防虫カーテン)などが挙げられます。
エアーカーテンを設置する場合は、その風力だけでなく吹き出しの向きにも気を付けなければなりません。
なぜなら、風力が弱かったり風向きが適切でなかったりすると飛翔性昆虫の侵入をほとんど阻止できないからです。
また、ビニールカーテンとシートシャッターでは、ビニールカーテンの方が間仕切りとしての効果は高いというデータがあります。
いっぽう、シャッターやドアなどには必ず隙間があり、そこからハサミムシやゴミムシ、ダンゴムシ、クモのような徘徊性昆虫(歩行性昆虫)が侵入することが多いです。
その対策としては、防虫ブラシ(インセクトガードブラシやインセクトガードパッキンなど)による隙間の閉鎖などが挙げられます。
次に誘引防止策として、主に光源管理や臭気管理、温度管理などが挙げられます。
これは昆虫の誘引源である光や臭い、熱源をコントロールするというのが目的であり、工場周辺(特に外壁)に昆虫を接近させないようにすることで侵入そのものを防止しようというのが狙いです。
光源管理(ライトコントロール)には防虫灯の設置や、紫外線カット(遮光)処理などがあります。
紫外線カット処理に関して特筆すると、正の走光性を持つ昆虫の誘引源である紫外線をカットする手段として、蛍光灯への紫外線カット処理や窓ガラスへの紫外線カット処理が挙げられます。
これらの処理は、万が一蛍光管や窓ガラスが割れた場合の飛散防止効果を持つものが多いです。
また、電撃殺虫器やライトトラップによる補殺もライトコントロールに含まれます。ただしこれに関しては、設置場所および使用方法を誤ると逆に昆虫を誘引してしまう結果となりますので注意が必要です。
最後に、侵入してしまった昆虫類の定着防止対策としては、資材・原材料・パレットなどの管理、不要物の除去、清掃(電撃殺虫器・ライトトラップなどの昆虫の死体除去も含む)などを実施する必要があります。
外部から侵入してくる昆虫の中には内部でも発生が可能で、世代交代を繰り返すことが可能な種も多いのでご注意ください。
内部発生型昆虫は多発生につながる危険性を秘めているため外部侵入型昆虫よりも怖い存在です。
これらの昆虫に対しては、早期に発生源を発見し、適切な処置を施し、完全にシャットアウトしなければ定着を防ぐことはできません。
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