工場内部で発生する昆虫
工場内部で発生可能な昆虫の種類は、外部から侵入する昆虫と比べて圧倒的に少ないですが、時々爆発的に増えることがあるため危険度はこちらの方が高いと言えます。
また工場内の至るところで捕獲される外部侵入昆虫と異なり、内部発生が可能な昆虫は局所的に発生するのも大きな特徴です。
そのため、資材倉庫や製造工程では捕獲が全く無かった昆虫種が、なぜか充填や梱包エリアで大量に捕獲されたというようなことが起こりうるわけです。
さて、内部で発生が可能な昆虫たちも発生環境はそれぞれ異なり、大きく3つに分けることができます。
一つ目は排水溝やピット(枡)などの湿潤なエリア。
このような場所からはチョウバエやノミバエなどが多数発生します。
またショウジョウバエやクロコバエ、ニセケバエ、フンコバエ(ハヤトビバエ)といったコバエが発生することもあります。
これらの幼虫は、主に排水溝やピットに付着した汚泥(スカム)や食品残滓などの有機物を食べて成長します。
それから天井裏に放置され腐敗したネズミやゴキブリの死骸などからノミバエ等が発生することもあるので、夏場は特に注意が必要です。
工場にはトイレがあり、当然浄化槽も工場敷地内にあります。
浄化槽では大抵チョウバエやノミバエが発生しています。中には浄化槽と工場が隣接していることがあるため、定期的な浄化槽の管理は非常に重要です。
また、ウェットなエリアから発生する昆虫を減らすためには、彼らの餌となるもの(汚泥、食品残滓、有機物など)を取り除くこと、つまり清掃が必要不可欠です。
内部発生昆虫に対しては、清掃による物理的な除去は殺虫剤を利用した化学的な防除よりもはるかに効果的です。
清掃によりクリーンな状態を維持することは予防にもつながります。
二つ目は乾燥したエリア。
そこから発生する代表的な昆虫としてコクヌストモドキ、コクゾウムシ、タバコシバンムシ、ノシメマダラメイガ、ヒラタムシ類などが該当します。
これらは穀類や乾燥食品等を食害しますので、貯穀害虫や乾燥食品害虫と呼ばれます。
製麺工場や製パン工場のような大量の粉を扱う工場や穀類貯蔵庫ではほぼ間違いなく発生・生息しています。
昆虫由来の異物混入クレームの中で検出頻度が高いのは、この乾燥食品害虫です。
特にノシメマダラメイガの件数が断トツですが、これは幼虫時代の移動分散能力やしがみつき能力、齧る能力に長けているためと思われます。
また一度発生・生息させてしまうと、防除するのは非常に困難です。
これらの乾燥食品害虫を防除する際によく用いられるのが性フェロモンなどを利用したフェロモントラップと呼ばれるツールです。
ただ、フェロモントラップはどちらかと言えばモニタリング(昆虫の動態監視)に効果を発揮するので、乾燥食品害虫発生の予察や早期発見に照準を合わせるのが良いでしょう。
もちろん、それ自体も捕殺する役割を果たしているのですが、やはり清掃など他の防除法と併用するのが良いと思われます。
三つ目はカビ(真菌)。
カビや塵埃を除去せずに放っておくとチャタテムシやヒメマキムシといった食菌性の昆虫が大発生します。
どちらも1〜2mm程度の非常に微小な昆虫なのですが、それらが何百匹、何千匹も群がっているのを見るとぞっとします。
そして、彼らがたくさん生息していることが確認されたとしても発生源の特定が困難な場合が多いです。
例えば、食品工場では低温倉庫や冷蔵庫周辺、天井裏、空調設備の内部(もしくは裏側)など結露の生じやすい箇所で発生していることが多いですが、チャタテムシやヒメマキムシはなぜか医薬品工場のようなクリーン度が高い工場でもしばしば問題となっています。
これらの防除の際、あまりにも個体数が多いのでつい殺虫剤に頼ってしまいがちですが、発生源の特定と清掃(特にカビの除去)を併せて行わなければ大きな効果は見込めません。
防除施工後、防カビ施工も同時に行うなど、食菌性昆虫の場合、微生物管理も視野に入れた方が良いでしょう。
上に挙げたヒメマキムシはコウチュウ目というグループに含まれます。
ヒメマキムシと言えばカビ、というくらいヒメマキムシの菌食いは有名ですが、コウチュウ目の中では、他にもハネカクシやケシキスイ、ヒラタムシ、コキノコムシ、キスイムシなど様々な種が菌(主にカビ)を食べて工場内部で発生することが可能です。
これらは、例えばカビの生えた食品やパレット、ダンボールの下で発生することが多いですが、吸湿してカビが生じた古い穀粉中から大量に見つかったことも何度かあります。
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