工場で昆虫を管理するとはどういうことか?
「工場で昆虫を管理する」とは一体どういうことなのでしょうか。
ここでは食品工場を例にとり、工場における昆虫管理について少し考えてみたいと思います。
食品工場における品質管理という意味では、微小な昆虫と言えどもれっきとした「異物」と見なし、そのように取り扱う必要があります。
昆虫が混入した製品は不良(欠陥製品)であり、品質管理上の問題となるからです。
従って、食品工場における防虫管理とは、異物である昆虫が製品に混入するのを防止するための総合的な技術体系であると言えます。
ただし、昆虫(広義には節足動物)とその他の異物混入防止対策とは目的は同じですが、技術方法論は異なるため注意が必要です。
例えば、製造環境内で昆虫を「異物」として管理するエリアは昆虫混入の可能性があるエリアに限定し、その他のエリアは異物ではなく昆虫として管理します。
つまり、重要管理エリアである充填・梱包エリアと、それほど重要でない倉庫エリアで同様の管理をする必要はないということです。
一般に昆虫は環境の指標となり、工場建屋あるいは製造環境への侵入に対するバリアー性能や製造環境における清掃管理の状況などを反映します。
防虫管理は、特に外部侵入昆虫に対する建物あるいは製造環境のバリアー性能が大きなウェイトを占めており、システマチックな管理運営にはある程度のバリアー性が必要となります。
清浄度の異なるエリアごとに区分けし、重要度を設定することを区分管理(ゾーニング)などと呼びますが、これによって初めて効率的な管理ができるようになります。
ゾーニングは非常に重要で、ゾーニングなしに防虫管理は成し得ない、と言っても過言ではありません。
建物のバリアー性も低くゾーニングもされていない製造環境では防虫管理を行うことはほぼ不可能です。
ですので、まずは施設・設備の防虫機能要求レベルと工場建屋(製造環境)の実際のバリアー性の客観的な評価を行ってみましょう。
ちなみに工場建屋(製造環境)のバリアー性能は昆虫モニタリングによって評価します。
現在はどんな食品工場でも大抵昆虫モニタリングを行っていると思いますが、捕獲昆虫を定量化し、時系列的に動態把握をしているのには、こういう意味もあったのです。
それから、昆虫モニタリングそのものは防虫管理ではなく、防虫管理の一手法だということを理解しておく必要があります。
また、昆虫モニタリングによって得られた昆虫捕獲データと昆虫混入の被害データの相関を分析する必要もあります。
食品工場の中には、昆虫モニタリングを行っているだけで防虫管理をやっているつもりになっているところがたくさん見受けられますが、これでは異物混入防止という当初の目的を忘れてしまったも同然です。
実際に製品に混入した昆虫のデータは防虫管理に携わっている全ての人達(場合によってはPCOに対しても)に開示する必要があり、昆虫モニタリングのデータとの相関を分析することで、より効果的な防虫管理につなげていくことが理想です。
さらに防虫構造基準の設定、管理基準値の明確化によって防虫管理の正確性はより一層高まります。
当然ながら管理基準値は食品工場によって様々であり、ゾーニングによっても異なりますので自社工場のレベルに見合った管理基準値を設ける必要があります。
管理基準値を設定するところまで来ると防虫管理のほぼ最終段階まで来たと言えそうですが、ここで安心してしまってはいけません。
様々な防虫対策によって防虫管理のレベルを高め、それに伴って管理基準値をどんどん改変していく必要があるからです。
最後に、今は何をするにも文書化が必要な時代ですので、防虫管理年間プログラムや作業手順書(SOP)も忘れずに作成し、それに沿った適切な運用を心掛けましょう。
関連ページ
- 最近よく耳にする総合有害生物管理(IPM)とは何か?
- 防虫管理はどのような流れで進めるべきか?
- 防虫管理におけるモニタリングとは?
- モニタリングのメリットとは?
- モニタリングトラップの同定・カウントについて
- モニタリング結果から何がわかるのか?
- 昆虫モニタリングに使用するトラップ
- ライトトラップについて
- ライトトラップ本体の耐用年数
- ライトトラップ本体交換の目安
- 床置き式粘着トラップについて
- 床置き式粘着トラップを紛失させないアイデア
- フェロモントラップとは?
- フェロモンを用いて害虫管理を行うメリット
- インスペクションとは?
- インスペクションのツール
- インスペクションを行う際に忘れがちなポイント
- PCOと契約する際の確認事項
- 防虫担当者とPCOの関係
- 製造業者にとって異物混入はリスクなのか?
- 異物混入におけるリスクマネジメント
- 昆虫の食品への混入によるトラブル
- カタラーゼ活性試験とは?
- 防虫担当者・品質管理担当者必見!昆虫由来異物の送付方法
- 原料、中間品、製品に混入した昆虫類の抽出方法
- 食品害虫のかじる能力
- 防虫包装とは?
- 外部から工場に侵入する昆虫
- 工場内への昆虫の侵入を阻止するには
- 光と色による害虫管理
- 光源管理(ライトコントロール)事始め
- 昆虫と光の関係
- 昆虫を寄せにくいナトリウム灯
- 黄色に防虫効果はあるか?
- 工場で問題となる昆虫の飛翔性
- 工場でよく問題となるクモ
- 昆虫の温湿度や二酸化炭素濃度などに対する習性
- 昆虫が工場内へ侵入するのを防ぐには?
- どんなサイズの昆虫までが管理対象となるのか?
- 工場外部の点検も忘れずに
- 緑地帯の害虫管理
- 昆虫と植物の関係
- 昆虫の樹木に対する好み
- 工場内部で発生する昆虫
- ゾーニングの意味を再考する
- 製造環境の指標となる昆虫類
- 製造工場で化学的防除を実施する際に考慮すべきこと
- 薬剤の保管と処理の仕方
- 用途に応じた殺虫剤の選定
- なぜ海外進出日本企業は現地で日本式防虫管理が必要なのか?
- ゴキブリの生息状況の確認
- ゴキブリ駆除にはベイト剤
- ゴキブリ指数と防除効果判定法
- エレベーターには昆虫がいっぱい
- 木製パレットは百害あって一利なし!?
- 意外と工場内に多い!?菌を食べる甲虫
- 工場の天井裏に潜む昆虫
- 「外部からの飛来虫を防ぐには扉が4枚必要」の意味は!?
- 屋上・屋根の防虫管理
- 工場や倉庫でよく問題となる外部侵入アリ
- 工場や倉庫でよく問題となる内部発生アリ
- 防虫ネットで虫がどれだけ防げるか?
- 米からの貯穀害虫の発生について
- GDPに対応した防虫・防鼠・衛生管理