食品害虫のかじる能力
昆虫にはかじったり穴を開けたりする能力、つまり穿孔能力を持つものが多数存在します。
特に、甲虫はほとんどのものが成虫期や幼虫期、あるいはその両期間ともに、穿孔性を持ちます。
食品害虫を例に挙げてみますと、ナガシンクイムシやシバンムシ、コクヌスト、ツヅリガ、カツオブシムシ、コクゾウムシなどにかじる力の著しく強いものがみられます。
特にカツオブシムシのいくつかの種やコクゾウムシはプラスチックの容器に穴を開けることができます。
また、食品害虫ではありませんが、アリの中にもプラスチックに穴を開ける種がいます。
昆虫のかじる能力を受け持つものは、口器の大腮(mandible)ですが、その形態は変化に富み、あるものは切断力にすぐれ、あるものは孔道を掘るのに適しています。
したがって、昆虫が食品や包材を穿孔する能力は、大腮の形態と機能によって決まると言えます。
代表的な食品害虫の穿孔能力を強弱で分けてみました。
■ 穿孔能力の非常に強い害虫(木材に穿孔可能)
ジンサンシバンムシ成虫・幼虫、コナナガシンクイ成虫・幼虫、コクヌスト成虫・幼虫、ハラジロカツオブシムシ幼虫、イッテンツヅリガ幼虫など
■ 穿孔能力の強い害虫(40μのPVDCフィルムに穿孔可能)
ノシメマダラメイガ幼虫、スジマダラメイガ幼虫、コクゾウ成虫、クロゴキブリ成虫など
■ 穿孔能力のやや強い害虫(25μのPVDCフィルムに穿孔可能)
コクヌストモドキ成虫など
■ 穿孔能力の弱い害虫(25μのLDPEフィルムに穿孔可能)
コクヌストモドキ幼虫、ノコギリヒラタムシ成虫など
■ 穿孔能力の非常に弱い害虫(25μのLDPEフィルムに穿孔不可能)
ノコギリヒラタムシ幼虫、コナダニ類など
PVDCフィルムとは、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂(いわゆるサランラップ)のことで、防湿性とガスバリア性の両方に優れる他にない特性を持ち、フィルムのコーティング材料としても多用されています。
またフィルム同士の密着性が高いため、家庭での包装に用いられたり、パレット梱包用ラップフィルムになど使用されたりします。
他方LDPEフィルムとは、ポリオレフィンの一種のポリエチレン樹脂でフィルムの素材としては最も多く利用されています。
比較的安価な材料であり、ヒートシール性に優れるなど加工も容易なためコンビニなどのポリ袋に使われる一方、食品包装用途で広く使用されています。
昆虫の幼虫は蛹になる場所や越冬場所を求めてさまようことがあります(ワンダリング)。
貯蔵食品害虫の一種、ノシメマダラメイガの幼虫はこのワンダリングの際に食品を包装しているフィルムに穴を開け、内部に侵入することが知られています。
その際、フィルムの継ぎ目の部分から穿孔したり、小さな空気穴(ピンホール)を拡張して入り込むことが多いようです。
いくらフィルム等でシュリンク包装してあるといっても、製品を倉庫等で長期間保管する際はこういった被害への用心が必要です。
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