カタラーゼ活性試験とは?
食品や医薬品をはじめとする各種製品において問題となる異物混入の中では、昆虫や毛髪がそれぞれ圧倒的に大きな比重を占めています。
特に混入異物となる昆虫は生き物であるため、他の異物とは異なり自発的な行動や繁殖能力を持ちます。
したがって、その混入経路の解明や混入時期および場所の判断には知識と経験が必要となります。
混入経路や混入時期、混入場所の判定は製造者側にとって非常に重要な問題です。
結果次第では裁判沙汰になったり、さらには営業停止などといった最悪のケースに陥ることもあるからです。
したがって、それらの解明および判断には確かな技術(分析能力)と経験が求められます。
現在、それらの解明や判断には様々な手法が用いられています。
その判断材料の一つとして、加熱などの加工が加えられた場合に、生物体内の酵素活性が失われるという点を有効に利用したものがあります。
それは生物体内におけるカタラーゼの活性が加熱によって失活する性質を利用して、製品に混入した昆虫(死体)が加熱工程を経ているか、あるいはそれ以降に混入したものかを判定する方法で、この酵素活性測定法は昆虫由来混入異物のカタラーゼ活性試験(単にカタラーゼ試験、またはカタラーゼ活性簡易チェック法、カタラーゼ反応判定法など)と呼ばれています。
異物検査でカタラーゼ活性試験を行う際は、生物体(昆虫死体)を直接使用する場合がほとんどですが、生物体や器官あるいは組織を磨砕混和器(ホモジェナイザー)中で緩衡液を加えてすり潰し、均一化したものや、さらに精製してより純化した酵素サンプルを用いて行った方が精度は高くなります。
またそれに加えて、恒温装置や浸透装置、反応物質(基質)調整、発生ガス量の測定、発色または電磁波吸収測定など色々な技法を用いる場合もあります。
しかし、いずれにせよ基本的には昆虫死体を過酸化水素水に浸漬させ、一定時間後の泡立ちを確認するのが目的です。
したがって、過酸化水素水さえあれば、あとはシャーレや試験管、ピンセットなどの簡単な実験器具とデジタルカメラなどの記録装置で十分事が足りるということです。ちなみに過酸化水素水はオキシドールという薬局方名で呼ばれており、消毒・殺菌・漂白などに使用されています。
ただし、混入時期等の判断には正確な技術や知識、経験が求められます。
例えば、加熱工程を経た昆虫死体であったとしても時間が経つとその体表にカビや細菌などが付着します。
そういった微生物もカタラーゼを持つため、検体(昆虫死体)のカタラーゼが失活していたとしても気泡が生じるわけです。
いっぽう、検体の種類や放置されていた期間・条件等の要因によりカタラーゼの活性低下の速度が異なります。
つまり加熱工程を経ていない昆虫死体でもカタラーゼが失活し、気泡が出なくなることもあるわけです。
このように、気泡の有無から陽性か陰性かを単純に判定するだけでなく、あらゆる可能性を考慮した上で総合的に判断する必要があるのです。
これには当然気泡を定量化して評価する技術が要りますし、何と言っても経験に勝るものはないと思われます。
ちなみに昆虫と同様に混入異物となりやすい毛髪ですが、毛根がついている毛髪で、且つ状態が良ければカタラーゼ活性試験を行うことが可能です。
確かにカタラーゼ活性試験を行うことで、昆虫の混入時期や死亡時期、混入経路などがある程度は推測できます。
しかし、このチェック法も完璧ではありません。
上にも書きましたが、全ての条件をもとに標準曲線が引ければ昆虫の死亡時期や混入時期の推定が可能ですが、実際には要因が多すぎてなかなか難しいのが現状なのです。
カタラーゼ活性の有無のみで昆虫の死亡時期や混入時期の全てが解決される訳ではなく、
試験の結果は参考資料的に活用されることが望ましいのです。
食品工場等の品質管理担当者はこの点をよく理解しておくべきだと思います。
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