黄色やオレンジ色は諸刃の剣!?

黄色に防虫効果はあるか?

黄色に防虫効果はあるか?

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ほとんどの昆虫、特に飛翔性昆虫は光に向かう性質を持ちます。
これを正の走光性と言います。

 

夏の夜にコンビニや自動販売機の光に誘引され、ガラス面に付着しているおびただしい数の昆虫をイメージして下さい。
昔は「飛んで火にいる夏の虫」と言われましたが、夜間に高速道路を走りながら思うのは「飛んでヘッドライトに向かう夏の虫」です。
たくさんの昆虫が車のヘッドライトめがけて突っ込んでくる様はまるで空母に突っ込む神風特攻隊のようです。

 

でも昆虫は何も好き好んで猛スピードで走っている車に向かっていくわけではありません。
走光性という本能のせいで、したくなくてもそうしてしまうのです。
人の目に見えない不可視光線である紫外線のうち、特に300〜400nm付近の波長に反応してしまう昆虫の悲しい性です。

 

でも昆虫の中には、単に紫外線に惹きつけられているばかりではないものもいます。
例えば、モンシロチョウは、雄が雌を判別する手段として雌の翅が反射する紫外線を利用していると言われています。

 

しかし、いずれにせよ多くの昆虫は紫外線によって(無意識のうちに)その行動を大きく左右されています。
この昆虫の行動に大きな影響を与える点を逆手にとって、私たちは紫外線を防虫管理の様々なシーンで利用しています。

 

例えば、ブラックライト(誘虫ランプ)を利用した電撃殺虫機ライトトラップ(捕虫器)などは、昆虫を紫外線で誘引して捕獲するものです。

 

他方、紫外線をカットするものもあります。
防虫フィルム防虫カーテン、防虫シートなどがこれに該当します。

 

(主に夜間に)工場などで室内照明が点いていると光が屋外に漏れるので、大量の昆虫を誘引してしまうのですが、防虫フィルムを窓や蛍光管に貼ることで昆虫が飛来するのを防ぐことができます。これは蛍光管カバーとも呼ばれています。
防虫フィルムの利点は、人にとっての明るさを保ちつつ、昆虫が利用する紫外線を通過させないというところです。
また、窓や蛍光管が破損してもガラスの破片を飛散させないという点でも優れています。

 

さて、昆虫には紫外線だけでなく色を識別する能力(色覚)も備わっています。
例えばミツバチの場合、黄色(650〜500nm)、青緑色(500〜480nm)、青色(480〜400nm)を識別しているようです。

 

防虫フィルムや高速シートシャッター、防虫カーテンなどには(最近は緑色もありますが)昔から黄色やオレンジ色がよく採用されています。
黄色やオレンジ色がよく使われる理由は、単純に目立つからという安全上の理由だけでなく、これらの色が紫外線を吸収しやすいからです。
紫外線カット効果を高めるために黄色やオレンジ色にした商品は多いです。
あと防虫カラーと言えば黄色かオレンジ色、というイメージがすでについてしまっているからという理由も多少はあるように思います。

 

ただ、色だけで考えた場合、黄色は昆虫が嫌う色ではなく、むしろ、好む色と言え、日中では逆に昆虫を誘引してしまうことがあります。
余談ですが、実際に野外で昆虫を捕獲するためのツールにイエローパントラップ(黄色水盤トラップ)というものがあるくらいです。
この仕組みは単純で、黄色い水盤に水を入れて地面に置いておけば黄色を好む昆虫が勝手に飛び込んでくるというものです。

 

従って、上に挙げた防虫資材に黄色やオレンジ色がよく使われているのは、紫外線カットの効率を高めるための要素であって、これらの色自体には昆虫の誘引を防止する効果はないらしいです。
それどころか、もし黄色の防虫フィルムを窓に貼ってしまった場合、夜間は室内の紫外線をカットし、外部に紫外線が漏れないようにしてくれますが、昼間は単純に外部にいる昆虫を誘引してしまう恐れがあります。

 

こう考えると、諸刃の剣とも取れる黄色の防虫フィルムや遮光フィルムを工場の外部から見える場所に貼ってしまうのはリスクがあるように思います。
工場の外部から見える場所には、無難に透明や緑色のUVカットフィルムを使用した方が良い気がします。
また、搬出入口には黄色の高速シートシャッターがよく設置されていますが、もしかするとあの色で昆虫を誘引しているかも知れません。

 

しかし、あの手のシートシャッターにはなぜあの色しかないのでしょうか。
日本では他の色はほとんどないですよね。(→海外にはあります。)
やはり安全上の問題なのでしょうか。

 

色による昆虫防除(カラーコントロール)は不確かなことが多いため、それほど研究開発が進んでおらず、未だ実現には至っていません。
まずは光による昆虫防除(ライトコントロール)から始めてみてはいかがでしょうか。


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