ゾーニングの意味を再考する
ゾーニングとは、食品工場などの製造施設内をゾーンごとに区分することを言います。
これは製造工程や各エリアの機能別、製品別に区分されることもありますが、一般的には衛生レベル(清浄度や汚染度別)によって区分されることが多いです。
食品を製造する施設におけるゾーニングを例に挙げてみましょう。
食品製造施設にてゾーニングを行う際、まずは一般区域(外部)と作業区域(工場内)を明確に分ける必要があります。
これは当然のことなのですが、守れていない食品工場もたまにあります。
この作業区域は清浄度により、さらに清潔作業区域(清潔区、最重要管理エリア、Aゾーンなど)、準清潔作業区域(準清潔区、重要管理エリア、Bゾーンなど)、汚染作業区域(汚染区、汚染エリア、Cゾーンなど)の三つに分けられます。
清潔作業区域とは、最終製品に対する交差汚染防止等の微生物制御を必要とする区域のことで、充填室や包装室、およびその他の原材料、中間品(加工工程品)、最終製品などが露出している全てのエリアが該当します。
次に準清潔作業区域ですが、これは汚染作業区からの微生物の汚染・拡散を防止する処置を行うエリアを指し、解りやすく言うと製造のための作業領域で原材料、加工工程品、仕掛かり品などが露出していないエリアのことで、加熱などの工程が実施されるボイル室などもこれに含まれます。
汚染作業区域とは、外部と接する可能性のある場所や原材料や包材などの外部から持ち込まれた物品がある区域のことを指し、原材料の受け入れ室や前処理室、倉庫などが該当します。
また、実際の製造のための作業を行わない廊下、工場内手前の社員通用口、資材搬入口などもこれに含まれます。
これらのゾーニングを誰でも一目でわかるように区域別にフロアの色を変えている食品工場も多いです。
ゾーニングを行う際の注意事項としては、
1) 清浄度の高い区域の空気の圧力を上げ(陽圧化)、人の出入りなどによる汚染空気の流入を避ける
2) 汚染区域から清潔区域への入室にはサニタリーエリアを通過しないと入室できない動線にする
3) ダンボール梱包された原材料や包材は製造エリア(清潔区域)に持ち込まない
4) 人・物・製品の動線を明確に分ける
などが挙げられます。
実際に作業を行う方にとっては非常に面倒な約束事が多いのですが、微生物汚染や異物混入を防ぐためには仕方がありません。
以上が衛生的なゾーニングの考え方となります。
それでは防虫管理および異物混入防止におけるゾーニングとはどういうものなのでしょうか。
食品製造施設では(製品への混入の可能性があるため)昆虫などの異物を極力持ち込まない、またはそれらを侵入させてはいけないエリアを清潔区に設定します。
一般に、製品への昆虫混入の危険度は清潔区に存在する昆虫類の密度(空間一定容積中の昆虫個体数)によって決まります。
すなわち、いかに清潔区内の昆虫個体数を減らせるかが異物混入を防ぐ鍵となります。
この時、清潔区の防虫管理は狭い空間ほど容易であり、狭ければ狭いほど厳密な管理が可能となります。
また、清潔区内では殺虫剤の使用を一切控え、エリア内では床置き式粘着トラップを主体とした昆虫モニタリング、および清掃に重点を置きます。
なお、このエリアでは昆虫類の誘引を招く恐れのあるライトトラップの使用は極力控えるべきです。
清潔区に隣接する空間・エリア(準清潔区)は昆虫混入の危険性は少ないですが、昆虫混入の確率をさらに抑えるための管理区分という考え方ができます。
食品工場ではこのエリアの面積が広いのが普通で、ここでは防虫管理のための諸技術が要求されます。
具体的には各種トラップによる昆虫類の捕殺、殺虫剤の散布、清掃の徹底などが挙げられます。
ただし、殺虫剤は昆虫モニタリングの結果に基づき、状況に応じた使用でなければなりません。
汚染区は壁、窓、ドア、ダクトなどにより直接外部と接しているエリアなので、バリアー性の強化、殺虫剤の有効利用、各種トラップによる捕殺など防虫対策重点エリアとなります。
このように食品製造施設内で防虫管理を行うためにはゾーニングが非常に重要です。
ゾーニングなしに防虫管理はできないと言っても過言ではありません。そして、それと同時に防虫管理をさらに容易にするのは建物自体のバリアー性であるということも忘れてはいけません。
工場内のゾーニングがしっかりしていても建物自体のバリアー性が低ければ全く意味がなくなってしまうのです。
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