モニタリングトラップの同定・カウントについて
食品工場などで昆虫モニタリングを実施していたら定期的にライトトラップ(捕虫紙)や床置き粘着トラップを回収しますよね。
ではトラップを回収したらその次は何をしますか?
モニタリングデータを取り、結果を分析しなくてはなりませんね。
そのためには、まずそれぞれのトラップに捕獲された昆虫が何であるのかを調べなくてはなりません。
それには、昆虫を分類し、名前(その昆虫が属する分類群)を特定するという作業が必要になります。
この作業のことを同定(Identification)と呼びます。
これによって何という虫が何頭捕獲されたかカウントできるようになるのです。
「同定」は、防虫管理を行う者(工場の防虫担当者や品質管理者、PCOなど)が身に付けておかなければならない最も基本的なスキルの一つです。
もし正確な昆虫同定能力が備わっていなければ、効果的な防虫対策を講じることは難しいと言えます。
なぜなら、昆虫は種によって生態が異なるため、同定の段で昆虫を間違って認識していたら最適な対策が打てなくなるばかりか、原因究明すらままならなくなるからです。
トラップに付着した昆虫を同定することはそれほど難しいスキルではありません。
ただし最低限の知識とテクニックは必要ですので、全くの初心者にとってはどうしても若干のトレーニングが必要です。
最低限の知識(各昆虫の見分け方)さえ覚えれば、後は慣れの問題ですので、数を多くこなすことで正確な同定力を身に付けることが可能です。
また、全社的、あるいは全部署的に昆虫同定能力を身に付けさせたい場合は、定期的に教育訓練を行い、社員一人ひとりの同定能力を高め、同定レベルの均一化を図ることも重要です。
夏場のモニタリングトラップ同定作業は、まるで戦争みたいなもので正確さはもちろんのこと、スピードも求められますので、どうしてもマンパワーが必要になります。
こういった理由からも、モニタリングトラップ同定は一人に任せるのではなく、全員ができるようにしておくのが望ましいです。
例えば、あるコバエを「これはフンコバエだ」という者がいたり、「いや、これはクロコバエだ」という者がいたりして同定結果にばらつきがあると、様々な問題が生じ、非常に困ります。
これではモニタリングデータの正確性が損なわれ、統一されたモニタリング報告書は作成できません。
もし社内で昆虫同定に関する教育訓練が不可能な場合、社外にて研修等を受けたり、講師やコンサルタントを呼んでインハウスセミナーを開催するのが良いと思います。
当サイトでも、食品工場等で問題となる各種昆虫の同定ポイントについて少しずつご紹介していければと思っています。
他にも、外部に接した搬出入室や検収室、前室のような場所では、当然昆虫の捕獲が多くなりますし、このような場所で捕獲された昆虫の種類や数を正確に知るのはナンセンスです。このようなトラップをカウントする際は、倍数でも問題ありません。
一方で、内部の製造エリアや充填・梱包エリアのような場所では、昆虫の種類を明確にし、なぜその場所でその昆虫が捕獲されたのかを究明する必要があります。この場合は、少し時間がかかっても正確な同定が求められます。
このようなルールも社内、あるいは部署内で徹底しておく必要があります。
昆虫同定は実体顕微鏡を用いて行うのが普通ですが、慣れてきたら虫眼鏡でも可能です。
主要な昆虫種であれば肉眼でもわかるようになります。
ただし、経験が浅い方にとっては正確な同定のためにもやはり実体顕微鏡を用いることが望ましいでしょう。
その他に、カウンター(数取り器)、マジックペンなどがあると便利です。
そして、何という昆虫が何頭捕獲されたのかを表にしていくのですが、捕獲された昆虫が外部から侵入したものなのか内部で発生したものなのか、またどこに生息する昆虫なのかがわかるような表にすると見やすくて良いです。
昆虫は科レベル〜目レベル程度の分類群に分類するのが望ましいですが、フェロモントラップを使用する場合や重要な衛生害虫(例えばゴキブリ)など特定の昆虫については種レベルまで同定する必要があります。
ではこの分類群は何項目くらい設定すれば良いのでしょうか?
これはモニタリングの対象となるエリアの防虫レベルを考慮して決定するのが望ましいです。
清浄度が高く、厳密なモニタリングを行っている工場では50項目以上に分類していますし、せいぜい10項目程度に分類している倉庫もあります。
例えば、IPMによる防虫管理の一環でモニタリングを行っている食品工場でしたら30項目くらいに分類しておけば問題は無いと思われます。
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