最近よく耳にする総合有害生物管理(IPM)とは何か?
IPMはIntegrated Pest Managementの略で、日本語では「総合的有害生物管理」や「総合的有害生物防除」と訳されます。
これは30年ほど前に、アメリカの農業分野において殺虫剤の使用を最小限に抑えるために考え出された手法です。
概念としては、複数の防除法を合理的に組み合わせ、害虫と害虫による被害をEIL(経済的被害許容水準)以下に抑えるための有害生物個体群管理システムとなっています。
これをもう少し簡単に説明すると、適切な調査により、ある地域(場所)のある時点で問題となっている害虫の種と個体数をしっかりと把握し、殺虫剤の使用(化学的防除)を必要最小限に止めた様々な防除法を用いて、害虫の個体数を農家の望む(具体的には農作物に被害の出ないような)レベルに保ち、管理することと言えます。
害虫駆除(ペストコントロール)業界におけるIPMも上記と概ね同じなのですが、これにプラスして製造業者や飲食店とのパートナーシップというものが非常に重要となります。
農業分野においては、(実際にはもっとあるのですが)農家と農作物の二方向の関係しかないため、もし害虫による被害があったとしても農家自身が痛手を被るだけです。
しかし害虫駆除業界においては、害虫駆除業者(以下、PCOとする)は防虫管理のアドバイザーであり、代行人でもありますが、実際の管理はお客様自身に行ってもらわなければなりません。
そこが農業とPCO業界の大きく異なる点です。
製造業者によっては、防虫管理の一切合切をPCOに丸投げにし、完全にノータッチの場合があります。
しかもそういう企業に限って、いざ昆虫関連のクレームが発生するや全てをPCOのせいにして烈火のごとく怒るのです。
しかし、防虫対策等にかかる費用も製造業者が出すわけですし、実際に何か(異物混入等の)PL問題が起こった際にリスクを負うのも製造業者側です。
したがって、製造業者は自分達の手で防虫管理をするのだという気持ちが大事ですし、PCOはあくまでもその手伝いをしているだけなのだという心構えが必要です。
そして、この辺の線引きは防虫管理を行っていく上で非常に重要です。
PCOは昔の「ゴキブリ屋さん」や「ネズミ屋さん」、「薬撒き屋さん」の印象が強く、往々にして下に見られがちですが、IPMを用いた防虫管理上、そのままではいつまで経っても良い信頼関係は築けません。
PCOは製造業者と対等か、もしくはそれ以上の立場で接することが望まれます。
よくPCOと製造業者の関係は、医者と患者という関係に例えられます。
患者である製造業者にどこか悪い部分が無いか検診し、いざ病気になれば適切な処置を取り、常に維持管理のためのアドバイスをしてあげるのが医者であるPCOに課せられた役割なのです。
このように、より良い防虫管理を行うためにはPCOと製造業者が、常に固いパートナーシップで結ばれているのが理想的です。
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