フェロモントラップとは?
一般に昆虫は視覚(体色、光、動作など)、聴覚(発音)、触覚(直接触れ合う)などの感覚や情報化学物質を利用して仲間(同種)や異種とコミュニケーションを行っています。
この同種または異種生物間に作用する情報化学物質のことをセミオケミカルと呼びます。
セミオケミカルを大別するとアレロケミカル(他感作用物質)とフェロモンに分けられます。アレロケミカルとは異種生物間に作用する情報化学物質のことで、アロモンやカイロモンなど様々な物質が発見されているのですが、ここでは省略したいと思います。
さて、ようやくフェロモン(Pheromone)という言葉が登場しましたが、この物質を定義すると「生物体内で生産され、体外に排出されて同種他個体に作用する情報化学物質」となります。
この言葉はギリシャ語のpherein(運ぶ)+ horman(興奮させる)に由来し、1959年にP. カールゾン、A. F. J. ブーテナント、M. Luscherによって提唱されました。
フェロモンには、他個体に特定の行動を引き起こさせる解発フェロモン(Releaser pheromone)と生理作用にかかわる起動フェロモン(Primer pheromone)があります。
前者には、性フェロモン、集合フェロモン、警報フェロモン、道しるべフェロモンなど、後者には階級分化フェロモンなどがあることが知られています。
これらの中で、昆虫を呼び集める(誘引する)という意味を持っているのは、性フェロモンと集合フェロモンの二つです。
そのため、対象昆虫の捕獲やモニタリングには、この2種のフェロモンが良く使われています。
ちなみに警報フェロモンや道しるべフェロモン、階級分化フェロモンは主に社会性昆虫や集団で生活する昆虫で見られ、中でも階級分化フェロモンについては特にハチ類やシロアリ類で確認されています。
性フェロモン(Sex pheromone)は配偶行動において異性間のコミュニケーションに利用される化学物質で、雌が雄に対し、自らの場所を教え、交尾行動を誘導するための物質です。
一方、集合フェロモンは雌雄を問わず誘引・定着させ、集団(コロニー)の形成、維持の働きを持っています。
貯穀害虫の場合、主に性フェロモンをコミュニケーションの道具として使っているのは飛翔性のグループで、集合フェロモンを用いているのは徘徊性のグループです。
フェロモントラップは、元来農業害虫防除の分野において有効な手段として利用されてきました。
例えば、合成性フェロモン剤に誘引された対象害虫を、水や粘着板などで捕らえることで異性との交尾率を下げる大量誘殺法と呼ばれる方法があります。
また、性フェロモンに寄って来る個体数をモニタリングすることで今後の発生個体数とそのピークを予想し、防除プランを立てる方法があります。
これは発生予察と呼ばれ、農業分野では非常に重要な役割を担っています。
害虫駆除業者が食品工場や穀物倉庫等で使用する場合もこれに良く似た意味合いで使われることが多いです。
また、農業分野ならではの方法として、交信撹乱ということも行われます。
これは高い濃度の合成フェロモンを農地全体に放出することで、異性の探索・発見を困難にするフェロモンを使った最も一般的な防除法なのですが、害虫密度の低いところでしか使えないという難点があります。
現在、これと全く同じではないのですが交信撹乱を利用した防除法を食品工場などの防虫管理でも取り入れようとする試みがあります。
ただし、この手法は次世代の個体数を減少させることは可能ですが、今いる昆虫を即座に駆除するものではありません。
したがって、食品工場などの防虫管理が異物混入防止を最大の目的としていることを考えると、この手法を採用することはベストな選択とは言えないのかもしれません。
以下は食品工場や穀物貯蔵施設などで定番のフェロモントラップです。
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