製造工場で化学的防除を実施する際に考慮すべきこと
近年、アメリカやその他の害虫駆除先進国ではGPM(Green Pest Management;GMPではないことに注意!)という言葉が生まれ、より環境に優しい防虫管理への取り組みが提唱されています。
しかしながら、日本の各種製造工場等においては残念ながらまだまだそれらの導入・実践には至っていません。未だに従来の総合的害虫管理(IPM:Integrated Pest Management)を実践することで精一杯という感じがします。
けれど、それは悪いことではありません。
要はIPMを正確に理解し、しっかり実施することの方が重要だからです。
ただし、昆虫モニタリングを実施している全国の工場数に比べると、実践的な物理的防除(各種トラップの積極的利用、清掃の徹底)や化学的防除(殺虫剤、忌避剤などの利用)といった製造環境内に存在する昆虫の個体数を下げる基本的技術を的確に行っているところはまだまだ少ないように感じます。
製造工場内での殺虫剤の使用については、(製造品目や業種にもよりますが)定期的に処理するのではなく、各種トラップによる昆虫モニタリングや日常のインスペクション(点検作業)で必要と認めた場合にのみ使用するのが望ましいです。
つまり、突発的に管理基準値を大きく逸脱するような事態が発生した場合に限り、速やかに密度を低下させるために効果的に殺虫剤を使用するのです。
これこそがまさにIPMの目指すところです。
この時、殺虫剤であれば何でも良いというわけではありません。
その状況に応じた最適な殺虫剤を選定する必要があり、そのためには殺虫剤についての正確な知識を持っておく必要があります。
殺虫剤には多くの系統、種類があり、製剤の形態も実に様々で、法的な規制もそれぞれ異なるため、使用する殺虫剤の選定は非常に重要であり、性質、安全性などについてもチェックしておかなければなりません。
多くは委託業務になり、信頼できる技術を有した害虫駆除業者(PCO)を選定することになると思います。
しかし、だからと言っていくら信頼関係がしっかりしていたとしても全てをPCOに丸投げではいけません。製造工場側の担当者の方もある程度の知識を有する必要があります。
例えば、食品工場内における殺虫剤使用は量、頻度とも限られていますが、外部と広い壁面で接している汚染区域やそれに準ずるエリアでは殺虫剤の使用は不可欠です。
また、短時間に昆虫類の密度を低下させるためには広い活性スペクトラムをもつ殺虫剤と適切な製剤(剤形)を選定することは重要であり、その選定にはそれぞれの特性を十分理解することが大切です。
日本で使用できる系統別の殺虫剤は、ピレスロイド系、有機リン系、カルバメート(カーバメート)系、昆虫成長阻害剤(IGR)、などとなっています。
当然ですが、殺虫効果だけではなく安全性や環境への負荷も考慮しなければなりません。
例えば、お馴染みのピレスロイド系殺虫剤は、一般に環境や生体内への蓄積はなく分解は比較的容易であり、生物活性は無差別で魚類への毒性が強いため、非水系への適用になります。
殺虫剤の剤形によっても環境負荷の度合いが異なります。
例えば、乳剤や油剤の溶剤は環境への負荷が大きいと言われています。
また、乳剤などに配合される界面活性剤も環境への負荷が大きいです。
一方、MC剤は水ベースなので界面活性剤の使用も少なく、環境負荷もそれほど大きくはありません。
殺虫剤に含まれる不活性物質(有効成分ではない物質、基質)で最も環境負荷が小さい物質は水であり、ついで天然の鉱物質の粉体や粒体となっています。
当然、固形やジェルタイプのベイト剤は使用場所が限局されるため環境への負荷は非常に小さいです。
使用する殺虫剤の選定を行う際はこういった点にも注目してみると良いでしょう。
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