製造業者にとって異物混入はリスクなのか?
近年、日本で起こった食品の安全・安心に関する問題を簡単に挙げてみたいと思います。
まず1996年に堺市でO-157による集団食中毒事件が起きました。
これは学校給食での出来事でしたが、この事件で数名の生徒が死亡しました。
次に2000年には大手乳製品加工メーカーが黄色ブドウ球菌による集団食中毒事件を引き起こし、社会問題となりました。
この事故の被害者は10,000人を越え、過去最大の食中毒事故となりました。
その後BSE問題が浮上しました。
この頃から、多数の異物混入問題がマスコミ等によりクローズアップされるようになりました。
また欧米からはISO、GMP、HACCP、AIBなどの各種規格が導入され始めました。
メーカーにとっては、これらを認証取得していないと運営に不利な状況になりつつあります。
2006年には厚生労働省からポジティブリスト制度が導入され、これによって殺虫剤の使用が制限されるようになり、防虫管理がさらに複雑化しました。
大まかにですがこのような流れを受けて、消費者の食品に対する品質、安全、安心などへの関心も高まっていったのです。
近年、「食品偽装」という言葉がテレビや紙面を賑わしています。
食品偽装と異物混入は両方とも食品安全上の問題ですが、食品偽装問題の方が消費者を欺いているという点でより悪質であると言えます。
こうなるとブランドイメージは失墜し、なかなか元には戻りません。
またほとんどの場合、法的な措置(例えば無期限営業停止)が取られます。
これはメーカー側にしてみれば、倒産の危機と言っても過言ではありません。
では異物混入はどうでしょうか。
2014年に起こったカップ焼きそばへのゴキブリ混入事件や大手ファーストフード店で起こった多数の異物混入問題は記憶に新しいと思います。
実際に食品メーカーにとって異物混入事故の発生はリスクとなり得るのでしょうか。
仮に製品に異物が混入し、消費者からクレームがあったとします。
すると当然、製品の安全性が著しく低下しますので、製品回収を行わなければならなくなります。
ここで回収コストが発生します。
またその異物によって被害があった場合、補償問題にもなるでしょう。
裁判等にまで発展してしまうと、賠償金額が数千万円から数億円に上ることも少なくありません。
マスコミなどに大きく取り上げられると、ブランドイメージも失墜します。
製品が売れなくなるばかりか、テレビや新聞等に謝罪広告も載せなければならなくなります。
したがって、食品メーカーにとって、昆虫であろうと無かろうと製品の品質表示欄に記載されていないものが混入した時点で、後々経営リスクに発展する可能性があると考えられます。
ちなみに、現在COOP(コープ;日本生活協同組合連合会)には年間約2万件の異物混入関連のクレームが寄せられるそうです。
また日本の大手ペストコントロール企業では年間約1万件の異物同定検査(異物の特定・分析)を行っています。
これらの大半は消費者によって発見されたケースであり、異物混入に対する消費者の意識は非常に高いと言えるでしょう。
これは、それと同時に多数の食品メーカーが異物混入問題に悩まされているということの裏付けでもあり、いかに異物混入対策が重要であるかを物語っています。
ゴキブリが混入した問題で操業を停止していたカップ焼きそばの製造工場が生産を再開しました。再発防止のために実施した異物混入対策についての動画です。
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